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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)4626号 判決

原告

滝口裕

右訴訟代理人弁護士

松岡滋夫

被告

ブリヂストン建築用品西部株式会社

右代表者代表取締役

伊久美喜久

右訴訟代理人弁護士

西浦一成

西浦一明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  原告と被告との間において、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、平成二年一二月一日以降毎月二五日限り各金二二万一九〇〇円の金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が原告を懲戒解雇したところ、原告が、右懲戒解雇が、無効であると主張して、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び懲戒解雇後の賃金支払を請求する事案である。

一  懲戒解雇に至る経緯

1  被告は、昭和四四年三月、ブリヂストンタイヤ大阪販売株式会社に入社し、同社の工業用品部門がブリヂストン工業用品株式会社に吸収され、その商号がブリヂストン工業用品大阪販売株式会社と改めた際、同社に移籍し、さらに、同社の建築用品部門のみを分離して、ブリヂストン建築用品大阪販売株式会社が設立されると同社に移籍し、昭和五九年四月、同社とブリヂストン大阪エバーライト化成株式会社とが合併して被告が設立された際、被告に移籍して、被告との間で雇用契約を締結し(以下「本件雇用契約」という。)、平成二年二月当時、被告総務部業務課に勤務していた(原告が、ブリヂストンタイヤ大阪販売株式会社へ入社後、被告へ移籍するまでの経緯は、弁論の全趣旨により認定し、その余は、当事者間に争いがない。)。

2(一)  原告は、平成二年八月から五回にわたり、個人で消費する目的で、株式会社大丸(以下「大丸」という。)との間で、五〇万円相当の商品券を、被告の口座を利用して、弁済期を同年九月末日とする約定で被告名義で購入したが、期日までに代金を支払わず、大丸から被告に代金未入の事実が通知された(当事者間に争いのない事実)。

(二)  原告は、同年九月二〇日、酒類の販売を業とする岸田澄夫(以下「岸田」という。)に対し、ビール券の購入を申し込み、ビール券二〇〇枚(代金一四万二〇〇〇円相当)を被告名義で購入して、同日午後二時ころ右二〇〇枚の交付を受けた(当事者間に争いのない事実)。

(三)  原告は、同年九月二〇日、株式会社日本交通公社(以下「交通公社」という。)難波営業所において、被告社員滝口と名乗った上、同年一〇月早々に東京新大阪間の新幹線エコノミーチケット五〇枚(金五〇万五〇〇〇円相当)と全日空クレジット・クーポン五枚組一セットを注文したいが、この注文を受けてくれれば、被告が同営業所に団体旅行の世話をするなどと言った。同営業所は、同月五日、被告に対し、原告が注文した新幹線エコノミーチケット等の納品の準備ができた旨連絡したが、被告はこれを断った(当事者間に争いのない事実)。

(四)(1)  原告は、同年九月二八日、ブリヂストンスポーツ関西販売株式会社(以下「ブリヂストンスポーツ」という。)の社員稲垣祐介に対し、ゴルフボール六〇ダースを同月二九日に大阪市生野区所在のタイホウ不動産へ納入するように被告名義で注文し、同日右ゴルフボールが同社に納入された。原告は、その代金中六万一〇〇〇円のみを支払った(当事者間に争いのない事実)。

(2) 原告は、同日、ブリヂストンスポーツ社員稲垣に対し、(1)と別に、ゴルフボール二〇ダースを被告名義で購入して、これを被告事務所に送付するよう申し込み、同年一〇月一日、右ゴルフボールが被告に送付された(当事者間に争いのない事実)。

3(一)  被告の就業規則は、会社の諸規程、通達命令に違反し、会社に損害を加えた者(四八条八号)、故意又は過失により会社の信用を傷つけ又は損害を加えた者(同条九号)、職務を利用し、自己又は他人の利益を図るなど不正の行為があった者(同条一三号)、会社の施設外で刑法上の罪を犯し、著しく会社の信用を傷つけあるいは損害を与えた者(同条一五条(ママ))を懲戒解雇に付する旨定めている(〈証拠略〉)。

(二)  被告は、原告に対し、同年一〇月、原告による2の各行為について、事情を聞くため、出社を求めたが、原告は、年休を取って出社しなかった。原告は、同月一六日午後六時ころ、出社したものの、中学生の長男を同行したため、被告は、十分な事情聴取はできなかった(〈証拠略〉)。

(三)  被告は、原告に対し、同年一一月六日午後二時から開催する懲戒委員会に出席して意見を述べるため、同日午前九時に被告事務所に出社するよう通知したところ、原告は、同日午前中に母親を同行して出頭し、母親が、被告社員に対し、原告に非のない旨主張している間に、原告が、母親を残して、一方的に退席して、被告事務所を立ち去った。

そこで、被告社員は、原告の母親に退出を求め、同女をエレベーターまで送ったところ、警察官数名が駆けつけ、被告社員に対し、被告事務所に人が監禁されているという一一〇番通報があったので出動したと告げた(〈証拠・人証略〉)。

(四)  原告は、現在に至るまで、被告に対し、2の行為について自己の非を全く認めていない(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)。

4  被告は、同年一一月七日、原告に対し、原告の2などの購入行為が、個人の取引であったにもかかわらず、被告の名義を使用し、又は被告の発注であるかのように装って、商品券、ビール券、新幹線エコノミーチケット、航空クレジットクーポン券、ゴルフボールなどの物品を購入し、又は購入しようとした上、その代金の全部又は一部を売主に支払わなかったものであり、右行為は、就業規則四八条八号、九号所定の懲戒事由に当たるとして、原告を懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)する旨通知した(当事者間に争いのない事実)。

二  原告の主張

1  本件懲戒解雇は、就業規則所定の手続に違反し、無効である。すなわち、被告の就業規則(四五条四項)が、行政官庁の認定を受けて解雇するとされているが、本件懲戒解雇は、右認定を受けていないので、無効である。

2  原告の行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由に当たらない。

(一) 原告の商品券及びゴルフボール購入行為は、個人の取引であるが、被告の従業員が、被告の名義を使用して、ブリヂストンスポーツのような被告の関連会社と個人取引を行うことは日常的に行われていた。また、原告以外の被告従業員も、大丸の被告の取引口座を利用して取引をすると、五パーセントの割引がある上、即金を支払わないでよいという利便があるため、個人消費の目的で、これを広く利用していた。そして、原告が、被告代表取締役樋笠憲夫(以下「樋笠」という。)から、右取引を禁止されたこともなかった。

また、原告は、平成二年一一月一六日までに、商品券代金を完済している。

したがって、原告の右行為が、懲戒解雇事由に当たらないことが明らかである。

(二) 原告の同年九月二二日のビール券の購入は、同年一〇月一〇日に開催された野球大会の商(ママ)品として、西原正篤総務部業務課長(以下「西原課長」という。)の指示で購入し、大会まで原告の事務机内で保管していたものであって、被告の従業員として、業務の一部として行ったものである。

また、同年九月二四日のビール券追加購入の申込みをした事実はない。

したがって、原告のビール券の購入は、懲戒解雇事由に当たらない。

(三) 原告の新幹線エコノミーチケット等の注文行為は、西原課長の指示に基づくものであるので懲戒解雇事由に当たらない。

(四) 被告主張の株式会社コックピットに対するタイヤ等の購入に係る事実はない。

3  本件懲戒解雇は、重きに失し、解雇権の濫用に当たり、無効である。

(一) 前記のように、被告の社員が、個人取引として、被告の関連会社から被告名義で商品を購入することが日常行われていたのであるから、これを理由とする本件懲戒解雇は重きに失し、不公平である。

(二) 本件懲戒解雇は、被告代表取締役樋笠が、同人に批判的な原告を嫌っていたため、前記の行為を口実に採られた処置である。すなわち、原告は、もともと、ブリヂストンタイヤ大阪販売株式会社に在籍していたが、被告に入社後、その社風や樋笠の経営方針、とりわけ、空出張による旅費の取り込みが日常茶飯事であることなどになじめず、批判的な態度を取ったため、同人に疎まれていた。

4  原告と被告の本件雇用契約において、原告の給与額は二二万一九〇〇円と合意されていた。

したがって、本件懲戒解雇が無効であり、本件雇用契約が存続しているのであるから、原告は、被告に対し、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成二年一二月一日以降毎月二五日限り各金二二万一九〇〇円の賃金の支払を求める。

二(ママ) 被告の主張

1  本件懲戒解雇は、就業規則所定の手続に違反しない。

すなわち、被告の就業規則によれば、懲戒解雇は、右予告手当を支払った場合には、行政庁(ママ)の認定を受けていなくても、就業規則に違反することはないと解すべきである(五九条二項)。

被告は、本件懲戒解雇の際、原告に対し、解雇予告手当として、原告の平均賃金の三〇日分に相当する二三万四八七〇円(原告主張の一月分の給与額を上回る額である。)を提供し、同年一一月一三日右金員を含む金員を支払ったのであるから、本件懲戒解雇は、行政官庁の認定を受けてなかったとしても、就業規則に違反しない。

2  原告の行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する。

(一) 被告代表取締役樋笠は、原告が、私用のため、上司に断りなく、被告名義で頻繁に多額の商品の購入をしており、右取引について金銭上の紛争を起こしたこともあったことを知り、原告のこのような行為が職場秩序を害し、被告の信用を損なったり、被告に損失を与えることを危惧し、原告に対し、上司の許可なく、被告名義で購入することを禁止する旨何度も命じた。

(二) しかし、原告は、右職務命令に違反して、上司の許可を得ることなく、被告名義で、商品券、ビール券、新幹線エコノミー切符等、ゴルフボールを購入した上、右代金を期限までに完済しなかったため、被告が、その売主から、代金を請求され、ビール券の残代金一四万二〇〇〇円、ゴルフボールの残代金四一万七五七八円の支払を余儀なくされるという損害を受けた上、原告の右行為自体、被告の取引上の信用を少なからず害した。

(三) 以上の外、原告は、同年一月から五月までの間、同僚社員竹本正茂の依頼により、その友人である同大喜田幸生のため、株式会社コックピット大阪に対し、タイヤ、オーディオ製品の注文を斡旋した際、原告名義で八万六九三二円、被告名義で三四万八八四九円及び竹本名義で二二万七六〇八円計六六万三三八五円の商品を注文し、竹内(ママ)から内金四五万円を預かったが、同社に八万円を支払ったのみで、残金五八万三三八五円を支払わなかったため、被告及び竹本は、同社から残金の請求を受けた。

(四) したがって、原告の右行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由である「会社の諸規程、通達命令に違反し、会社に損害を加え」る行為(四八条八号)、「故意又は過失により会社の信用を傷つけ又は損害を加え」る行為(同条九号)、「職務を利用し、自己又は他人の利益を図るなど不正の行為」(同条一三号)、「会社の施設外で刑法上の罪を犯し、著しく会社の信用を傷つけあるいは損害を与え」る行為(同条一五条(ママ))に当たることが明らかである。

3  本件懲戒解雇は、解雇権の濫用には当たらない。

原告の右行為は、被告に多額の損害を与え、その行為の態様も、被告の職場秩序を著しく害するものであり、情状も極めて悪質であるので、本件懲戒解雇は、客観的にも合理的な理由があり、社会的にも是認し得るものであって、重きに失することはない。

4  以上によれば、本件懲戒解雇は有効であるので、本件雇用契約は、右解雇により、消滅しており、本件雇用契約の存続を前提とする原告の本件請求は理由がない。

三  主たる争点

1  解雇手続違反の有無

2  懲戒解雇事由の有無

3  解雇権濫用の有無

四  証拠

記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  解雇手続違反の有無

1  原告は、被告の就業規則(四五条四項)が、行政官庁の認定を受けて解雇すると定めているところ、本件懲戒解雇は、右認定を受けていないので、無効である旨主張し、被告の就業規則には、「行政官庁の認定を受けて即時解雇する」という定めがある(四五条四項)。

2  しかし、被告の就業規則が、懲戒解雇の場合であっても、三〇日前の予告又は平均賃金の三〇日分の予告手当を支払って行うこととし、法定届を認定された懲戒解雇の場合には、右予告及び予告手当の支払を不要とする旨定めていることに照らすと(五九条一項七号、二項)、右就業規則に基づく懲戒解雇は、右予告又は右予告手当の支払をした場合には、行政官庁の認定を受けないときであっても、就業規則に違反しないものと解すべきである。

そして、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件懲戒解雇の際、原告に対し、解雇予告手当として、原告の平均賃金の三〇日分に相当する二三万四八七〇円(原告主張の一月分の給与額を上回る額である。)を提供し、同年一一月一三日、右金員を含む四二万五三一〇円を原告の口座に送金して支払ったのであるから、本件懲戒解雇は、行政官庁の認定を受けていなかったとしても、就業規則に違反することはなく、有効であると解すべきである。

3  したがって、いずれにしても、原告の右主張は、採用できない。

二  懲戒解雇事由の有無

1  前判示の事実及び証拠(〈証拠略〉、原告本人尋問の結果(ただし、後記認定に反する部分を除く。)、〈人証略〉)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)(1) 原告は、平成元年四月ころ、被告社員小川恭弘の依頼により、同人のために、被告名義でブリヂストンタイヤ大阪販売株式会社から、代金約三〇万円でタイヤを購入したが、小川から預かった代金の一部を同社に支払わず、同社に対する債務の弁済期を徒過したため、同社が被告に代金を請求して、紛争になった(〈証拠略〉)。

(2) 被告代表取締役樋笠は、原告が、(1)のような金銭トラブルを起こした上、上司である総務部業務課長又は総務部長に断りなく、頻繁に多額の商品を被告名義で購入をしていることを知り、原告のこのような行為が、職場秩序を害し、被告の信用を損なったり、被告に損失を与えることを危惧し、原告に対し、上司である総務部業務課長又は総務部長の許可なく、被告名義の購入行為をすることを禁止ずる旨命じたが、その後も、原告がこれに従わずに、被告名義を使用して個人取引を繰り返したため、平成二年二月ころ、上司の許可なく、被告名義で取引をすることを禁止する旨再度命じた。

(二)(1) 原告は、平成二年八月当時、被告の総務部業務課に所属していたところ、私的な交際として参加するゴルフ大会の賞金にする目的で、大丸から、上司である総務部業務課長又は総務部長の許可を受けることなく、被告に無断で、平成二年八月一一日、一三日、一六日、二六日、九月二日の五回にわたり、各一〇万円合計五〇万円の商品券を、同月末日にその代金を支払う約定の下に購入したが、その際、大丸の担当者に指示して、買主を被告とし、その際発行された商品券届の名義も被告宛とさせた(〈証拠・人証略〉)。

(2) 原告が、同月末日に代金を支払わなかったため、大丸の担当者は、同月二日、被告事務所を訪れて、被告にその代金を請求したが、原告が有給休暇を取り、欠勤していたため、他の社員が応接して、被告が(1)の事実を知ることになった。その際、被告は、(1)の取引が原告個人の取引であると主張したため、原告と交渉したところ、原告は、大丸に対し、同年一〇月六日一五万円、同月一三日一五万円、同月三一日一〇万円、同年一一月五日五万円の計四五万円を支払い、被告が本件懲戒解雇の通知を発した後、同月八日五万円を支払い(〈証拠略〉)、右代金を完済した。

(3) 大丸は、原告が、被告を代理し、その窓口となって、右取引をしたものと判断していたので、原告が右代金を完済しない場合には、最終的には被告に請求することもあり得ると考えていた(〈人証略〉)。

(三)(1) 原告は、同年九月二二日(土曜日)、岸田を、被告事務所に呼び出した上、同月二三日と二四日に行う被告の社員慰安会で使用するために必要なビール券を購入したいと申し向け、ビール券二〇〇枚を、代金一四万二〇〇〇円、代金支払期を一〇月末日とする約定の下で、被告名義で買い受けた。その際、原告は、岸田に対し、被告の会社経歴書及び会社取扱品カタログと名刺を交付した上、慰安会のスケジュールを説明した。

岸田は、同日午後二時ころ、被告事務所を訪問して、原告に対し、右ビール券二〇〇枚を納入すると、原告は、受取書に被告の受領印を押捺した(〈証拠略〉)。

(2) 原告は、同月二九日、岸田に対し、被告の運動会に使用するためとして、ビール券二〇〇枚(代金一四万二〇〇〇円)を申込み、岸田は、同年一〇月二日、被告に右ビール券を持参した。当日、原告が欠席していたため、上司の西原課長に交付し、同課長は、被告の受領印を受取書に押捺した(〈証拠略〉)。

(3) 被告代表者樋笠は、同月四日、岸田を被告事務所に呼び出し、事情を確かめた上、同人に対し、2(ママ)のビール券二〇〇枚については、原告の私的な購入であり、被告と関係のない取引であるとして、右ビール券二〇〇枚を返還した。しかし、岸田は、右ビール券の返品と売買の解消には応じたものの、樋笠に対し、同月二二日に納品したビール券二〇〇枚の代金一四万二〇〇〇円を被告が支払うことを強く要求したため、結局、被告は、同年一二月二八日、岸田に対し、やむなく右代金一四万二〇〇〇円を支払った。

(4) 原告は、岸田から納品を受けたビール券二〇〇枚を被告に交付していない。

(5) 原告は、右ビール券の注文について、上司である総務部業務課長又は総務部長の許可を得ていない。

(四)(1) 原告は、同年九月二〇日、交通公社難波営業所において、被告社員滝口と名乗った上、被告として、同年一〇月早々に東京新大阪間の新幹線エコノミーチケット五〇枚(五〇万五〇〇〇円相当)と全日空クレジット・クーポン五枚組一セットを注文したい、この注文を受けてくれれば、同営業所に被告の団体旅行を世話する、月一回日を決めて、被告に出向いてくれれば、その時に注文を出すなどと述べた(〈証拠略〉)。

(2) 同営業所の担当者は、同月五日、被告の事務所に電話したが、原告が欠勤していたため、代わって電話に出た被告従業員に対し、原告から注文された新幹線エコノミーチケット等の納品の準備が出来たので、被告事務所に持参したい旨述べたのに対し、西原課長が、電話を代わり、被告は右注文をしていないので、右売買を解消して欲しいと述べ、右売買が、解消された(〈証拠略〉)。

(3) 原告は、右注文を、上司である総務部業務課長又は総務部長に無断で行った。

(五)(1) 原告は、ブリヂストンスポーツが、被告の関連会社であり、被告名義を使用すると、その商品を代金後払で卸値により購入できることから、個人として、同社からゴルフボールを購入し、タイホウ不動産に転売することを計画した。

そして、原告は、同年九月二八日、総務部業務課長及び総務部長に無断で、ブリヂストンスポーツ社員稲垣祐介に対し、被告名義で、ゴルフボール計六〇ダースを代金四七万八五七八円で買い受けた上、右ゴルフボールを翌一九日、大阪市生野区所在のタイホウ不動産へ直接納入するように申し込み、同人もこれを承諾し、被告とブリヂストンスポーツ間で売買契約が提出(ママ)された(〈証拠略〉)。

また、原告は、被告名義で、ゴルフボール二〇ダースを買い受けて、右ゴルフボールを「ブリヂストン建築用品西部滝口」宛送付するように申込み、稲垣が承諾して、被告とブリヂストンスポーツ間で右売買契約も成立し、このゴルフボールは、被告事務所宛に宅急便で送付された。

(2) 稲垣が、同月二九日右ゴルフボールをタイホウ不動産事務所前に届けたところ、原告が、事務所の外で待っていて、これを受け取り、自分で事務所内に運び込んで、タイホウ不動産へ転売した。

(3) 原告は、ブリヂストンスポーツに対し、同年一〇月八日一万一〇〇〇円、同月一二日五万円を支払ったが、残金四一万七五七八円の支払をしなかった。

(4) ブリヂストンスポーツは、被告と交渉した結果、同年一二月二三日、被告がその残代金四一万七五七八円を支払った。

2(一)(1) 原告は、被告代表取締役樋笠が、原告に対し、私用のため、上司に断りなく、被告名義で取引をすることを禁止したことがない旨主張し、原告本人尋問中には、これに沿うかのような供述部分があり、(人証略)中には、被告の社員は、個人として、被告の関連会社から、自由に商品を購入しており、原告だけがこれをできないという認識はなかった旨証言する。そして、(証拠略)中にも、これに沿う記載がある。

(2) しかし、原告は、本人尋問中で、被告代表取締役樋笠から、何年か前、私用のために被告名義で取引してはならないといわれたことを自認する供述をしており、仮処分事件における審尋(〈証拠略〉)においても、樋笠から、個人の取引と会社の取引を分けるようにと言われた旨供述すること、(〈証拠・人証略〉)に照らすと、(1)の証言及び(証拠略)をもって、前記認定を覆すに足りず、ほかにこれを左右するに足りる証拠はない。

(二)(1) 原告は、同年九月二二日のビール券の購入は、同年一〇月一〇日に開催された野球大会の商品(ママ)として、西原正篤業務課長の指示で購入し、大会まで原告の事務机内で保管していたものであって、被告の従業員として、業務として行ったものであり、また、同年九月二四日のビール券追加購入の申込みをした事実はない旨主張する。

(2) しかし、(証拠略)には、原告が、岸田に対し、九月二二日注文のビール券を社員慰安会に使用する旨述べ、そのスケジュールを説明した旨の供述が記載され、右供述内容は、格別、不自然とはいえないこと、当時、社員慰安会が開催されたり、そのスケジュールが決定されていたとは認められないことからすると、右供述にある原告の言動は、右ビール券の購入が、被告従業員としての業務遂行としてされたものとみるには、不自然な点のあることが否めないこと、原告は、ビール券を被告の業務の遂行として購入したと主張しながら、被告にこれを交付していないこと、被告では、ビール券のように換金性の高いものは、金庫で保管するのが通常の取扱いであったこと(〈人証略〉)、もっとも、原告は、同年一〇月二一日、被告に対し、原告が事務所の机でビール券を保管している旨通知したとはいえ(〈証拠略〉)、被告が右机を調べたが、右ビール券が発見できなかったこと(〈証拠略〉)、(人証略)は、原告に商(ママ)品として、ビール券の購入を指示したことはなく、一〇月一〇日に開催予定の被告主催の運動会の商(ママ)品は、同年六月に雨天中止となったソフトボール大会用の商品券と図書券を流用することになっていた旨証言するところ、前判示の点に照らすと、右証言内容も不合理とはいえないこと、(証拠略)には、前記認定のように、原告が同年九月二四日にビール券を追加注文した旨の供述の記載があるところ、右供述内容は、不自然とはいえず、請求書及び納品書(〈証拠略〉)の記載とも一致すること、原告は、当初、仮処分事件で提出した陳述書(〈証拠略〉)では、ビール券の購入が架空の事実であると主張していたが、本件訴訟においては、ビール券の二回にわたる注文の事実を認め(平成六年一月一七日付け準備書面)、その後、右ビールの再注文を否認する旨主張するに至った(同年三月一日付け準備書面)ものであり、このような主張の変遷には不自然な点のあることが否めないことなどの点に照らすと、本件全証拠によっても、前記認定を覆すには足りず、原告の右主張は、採用できない。

(三)(1) 原告は、新幹線エコノミーチケット等の注文は、西原課長の指示に基づくものである旨主張し、原告本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分があり、(人証略)の証言中には、営業の者が多数出張し、多数の切符を必要とする場合には、営業の者が手配したり、総務部長が忙しい場合には、他の人に依頼したことがある、西原課長が、原告に依頼して、旅行社の中で、被告が購入した航空券を被告に持参してくれるところを探すことを命じ、原告が旅行社を回ったことがある旨の各供述のあることが認められる。

(2) しかし、(人証略)は、原告に右注文をしたことはない旨証言すること、前判示のように、交通公社の担当者が、被告に電話して、右エコノミーチケットの納品を申し出た際、西原課長は、その場で右注文が被告のしたものではないとして、解約を申し出たこと、原告が、同年九月二〇日について作成し、被告に提出した日帰り出張申請書兼旅費請求書(〈証拠略〉)には、「JRメール」「本町―心斎橋」「地下鉄三二〇円」という記載があるのみで、交通公社難波営業所へ行った旨の記載がないこと、原告は、当初、仮処分事件で提出した陳述書(〈証拠略〉)では、右エコノミーチケットの購入が架空の事実であると主張していたこと、(人証略)の各証言によれば、被告の必要とする新幹線切符の手配は、総務部総務課に所属する池田清子が主に担当しており、池田が西原又は原告から右注文について告知されていたとは認めるに足りないことなどの点に照らすと、1(ママ)の証拠をもって、右認定を覆すには足りず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  右認定の事実によれば、原告は、被告代表取締役樋笠から、上司の許可なく、被告名義で商品を購入することを禁止する職務上の命令を再三受けたにもかかわらず、これに違反して、上司の許可を得ることなく、被告名義で、商品券、ビール券、新幹線エコノミー切符等、ゴルフボールを購入したものである。

そして、原告が右代金を期限までに完済しなかったため、被告は、その売主から、代金を請求され、ビール券の残代金一四万二〇〇〇円、ゴルフボールの残代金四一万七五七八円の支払を余儀なくされるという損害を受けた上、被告の社員が、被告代表取締役の指示に違反して、被告に無断で被告名義の物品の購入行為を繰り返した上、その代金を支払わず、被告がその請求を受けるという事態を招来したこと自体、被告の取引相手としての信頼性を著しく損なうものである上、被告の取引関係者や関連会社に対し、被告の職場秩序の保持能力や従業員に対する適正な管理能力についても多大の疑念と不信感を抱かせるおそれが極めて強く、被告の取引上の信用を著しく害するものであるというべきである。

したがって、原告の右行為が、就業規則所定の懲戒解雇事由である「会社の諸規程、通達命令に違反し、会社に損害を加え」る行為(四八条八号)、「故意又は過失により会社の信用を傷つけ又は損害を加え」る行為(同条九号)に当たることは明らかである。

三  解雇権の濫用について

1  原告は、被告の社員が個人の私的な購入について、被告の関連会社から被告名義で商品を購入することが日常行われていたのであるから、これを理由とする本件懲戒解雇は重きに失し、不公平であり、本件懲戒解雇が、被告代表取締役樋笠が原告を嫌ったために採られた処置であるとして、本件懲戒解雇が、解雇権の濫用に当たり、無効である旨主張する。

そして、(証拠・人証略)の結果によれば、被告の社員は、被告の関連会社から被告名義でその取扱商品を購入すると代金額が市価より安くなるため、個人的な購入について、右関連会社から被告名義で商品を購入することがあり、その際、上司の決裁を要するという取扱いがされていなかったことが認められる(〈人証略〉も、同旨の証言をする)。

(二)(ママ) しかし、被告の社員が、被告名義を使用して個人取引をすることは、職場秩序の維持や被告の取引上の信用を保持する観点からは望ましくないことが明らかであり、社員が代金の支払を確実に履行し、代金債務の支払などについて取引上の紛争を起こさないことを前提としてのみ、社員の利便を図るという見地から許容する余地のある措置というべきであるところ、前判示のように、被告代表取締役樋笠は、原告が、小川恭弘から依頼された被告名義によるタイヤの購入について、同人から預かった代金の一部の支払をせず、前判示のような金銭上の紛争を起こしたことや、被告名義の個人取引を頻繁に行い、その額が多額になっていることを知り、原告のこのような行為が職場秩序を害し、被告の信用を損なったり、被告に損失を与えることを危惧して、原告に対し、上司である総務部業務課長又は総務部長の許可なく、被告名義の購入行為をすることを再三禁止したものであり、右の経緯及びその後の原告の行動に照らすと、被告代表取締役樋笠が、原告について、特にこのような措置を採ったことも不合理とはいえず、原告もこれに従うべき職務上の義務があったものと認められること、原告は、被告代表取締役の右職務命令に違反し、約二か月の間に、上司の許可なく、被告に無断で右各行為を繰り返しており、その購入額も多額であること、原告の右行為の結果、被告が支払を余儀なくされた金額は、約五五万円と多額である上、前判示のように、被告の社員が、被告代表取締役の職務命令に違反して、被告に無断で被告名義の物品の購入行為を繰り返した上、その代金を支払わず、被告がその請求を受けるという事態を招来したこと自体、被告の取引相手としての信頼性を著しく損なうものである上、被告の取引関係者や関連会社に、被告の職場秩序の保持能力や従業員に対する適正な管理能力についても多大の疑念と不信感を抱かせるおそれが極めて強く、被告の取引上の信用を著しく害する行為であること、原告は、その後の被告の事情聴取に対しても、誠意ある対応をしておらず、現在に至るまで自己の非を認めていないことからすれば、被告に在籍する限り、同種の行為を繰り返すおそれが極めて高いものと認められること、原告以外の被告社員が、個人的な購入について、被告の関連会社から被告名義で商品を購入することがあったとしても、本件のように、被告代表取締役の職務命令に違反したり、短期間に多額の取引を繰り返したり、代金の支払を遅滞して、被告にその支払を余儀なくさせるような損害を与えたものとは、認めるに足りないことなどの点に照らすと、原告の右行為は、被告の職場秩序を著しく害するものであり、その情状も極めて重いものであるというべきであり、本件懲戒解雇は、被告代表取締役樋笠が、原告を嫌ったため、原告の前記の行為を口実に採られた処置であることも認められず、本件における諸般の事情に照らしても、客観的にも合理的な理由があり、社会的にも是認し得るものであって、重きに失するとか不公平であるとは認めるに足りない。

したがって、本件懲戒解雇が、解雇権の濫用に当たるものとは認められず、ほかにこれを認めるに足りる事情の立証もない。

四  以上によれば、本件懲戒解雇は有効であると解すべきであるので、その無効を前提とする原告の本請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないものというべきである。

(裁判官 大竹たかし)

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